格言に見る業界ばなし その1 馬鹿な大将・・・ (2014年 時計美術宝飾新聞)

 この格言、馬鹿な大将敵より恐い、と続きます。ここで言う大将とは、自軍の大将のこと、相手の大将ではありません。つまりですね、アホな大将の元で戦争をすると敵と戦うよりも恐ろしい、アホな指揮のせいで、死ななくともいい友がばたばたと死ぬ、今風に言えばアホな社長の下で仕事をすると、ただただ騒ぐだけで成果なしというエライことになるという例えです。なにかじーんと身につまされませんか。                                  
 我らが業界でこれが典型的に現れているのが、商品作りでしょうね。誤解されていることが多いのですが、商品作りというのはデザイナーの仕事ではない。もちろん、最初はデザイナーが絵を描くところから始まるのですが、作るデザインを選ぶのはデザイナーじゃない、大将、つまり社長ですよ。ダメな商品を作る会社の特徴というのは、良いデザイナーがいないということもあるのでしょうが、私の見る限りでは、作るデザインを選ぶ社長のセンス、知識、能力に問題があると言えます。
 我らが商品、ジュエリーとは美があるべきものでしょう。美しくないジュエリーとはジュエリーじゃない。ですからどんなものを美と思うか、美しいと思って選ぶかは、ジュエリーの死命を制することなのですよ。このデザイン選定という一番大事なところに、美的センスも教養も知識も無い大将がデーンと座っている、これこそ日本のジュエリー業界の悲劇です。こんなことを言うと、いや私はデザイン選びは社員に任せています、口は出していませんという社長がいますが、まったく分かっていない。社員は社長の顔色を見ているのですよ、社長が好きそうなデザインとは何かを見ながら仕事をしている。社長、それはダメですよと言う社員などいませんよ。
 こんな状況のなかで優れたデザインが生まれたら不思議と言うものです。企業のキャパとは、しょせん社長のキャパを超えることはないのです。特に宝石業のように家内産業のような性格をもった企業では、社長のキャパですべてが決まる。だからこそ、社長は誰よりも勉強しなければならない、これが我らの業界の宿命なのですよ。
しかし皆さん勉強しないですよね、つくづくそう思います。三年ぶりに会っても、まったく変わらない、変わらないどころか悪化している、と言いたくなる業者はたくさんいますが、おお、成長したなと言える人は皆無に近い。せいぜいがバーゼルか香港フェアに行ってウロウロするのが勉強だと思っている訳で、お客が感動し喜んでくれる美とは何かなどを考えることなど、まったく無い。
 これから店の善し悪しを決めるのは商品ですよ、その商品作り、あるいは商品選びに、不勉強な大将が音頭を取ったのでは、漫画にしかならない。それが今の業界ですよ。何が美しいものか、何が感動を与えるものかを知るための勉強をお願いしますよ。大将が勉強しないで、部下が勉強する訳は無い。どうか大将の皆さん、社員から陰で、馬鹿な大将敵より恐いと言われていないか、反省をお願いします。

2019年4月11日