この五十年の真珠衰退を思う 第18回 アコヤのブランドイメージは復活できるか(2014年 時計美術宝飾新聞)

 真珠の美しさとは真珠光沢と呼ばれる独特のとろりとした光沢にあることはご存知の通りですが、いろいろな真珠を見てみて、この光沢が最も美しいのはアコヤです。これは間違いない。このアコヤという貝は、亜種まで含めると最も広く分布しており、日本の海から遠く紅海にまで広がり、別の亜種はヴェネズエラ沖にまでいます。初期の天然真珠の時代——つまりヴェネズエラとか太平洋とかの真珠が採れる前ですねーーに採れた真珠の多くは、このアコヤ貝と黒蝶貝からのものでした。この黒蝶というのは、今ではタヒチ辺りの特産ということになっていますが、実は遠く紅海にまで分布している貝で、アコヤと並ぶ真珠貝なのです。大きいことで有名なホープ真珠も母貝は黒蝶ですよ。
 養殖真珠が始めて欧州に登場した時、欧州の宝石業界は過剰とも思える反応を示しました。その理由は天然真珠の値が下がるということもあったでしょうが、日本人が母貝として使ったのがアコヤであった、つまり自分たちが依存して来た天然真珠と同じ貝から採れた真珠だと言うこともショックだったと思います。それほどにアコヤという貝は、その亜種も含めれば、天然真珠の時代にも美しい真珠を産む貝の中心であった訳で、いま真珠光沢はアコヤが最高と私が言うまでもなく、そんなことは自明のことだったのですよ。
 その素晴らしい貝をぐちゃぐちゃにして、アコヤの持つはずの美しさの片鱗もないような真珠を作り、それを人工的に加工して、しかもその加工が長持ちしない、だから採れる量が半分以下になっているのに、価格も暴落したままと言う、実に愚か事態を引き起こしたのは、我々日本人ですよね。今や白蝶も黒蝶も、アコヤに引き続いて加工を始めている、これは業界の常識でしょう。一方において、製品の表示に関しては、世界的にますます厳しくなっている。世界にはCIBJOとか言う団体があって、これが十年以上もアーダコーダやっていますが何一つ決まらない。それなら日本は真珠についてはこうやると決めれば、結構それで通用すると思うのですが、そんな決定をするほど日本の業界のレベルは高くない。すべてが宙ぶらりんのまま、迷惑を被るのはお客様と言う図式は変わりません。
 こうした中で、アコヤが己のイメージアップ、その回復を狙うなら、やるべき道は一つだけ、天上天下唯我独尊、自分でやることを決め、それを皆で追求する、それが第三者から何を言われようと断固決めた道を邁進することだけ。ただこの決めの基本は、お客にとって何が一番良いのかが基礎ですよ、業者にとってではない。この辺り、連載最後の二回で纏めてみたいと思います。

2019年3月31日