この五十年の真珠衰退を思う 第17回 アコヤというブランドについて考える(2014年時計美術宝飾新聞 )

 ジュエリーの素材としてのアコヤ真珠の競争相手は何でしょうか。もちろん、真珠同士で言えば白蝶であり黒蝶であり、さらには天然真珠も競争相手かも知れません。真珠以外なら、ダイヤモンドを筆頭に、全ての貴石、半貴石が相手ですよね。競合相手があって名前がついているとなると、これは一種のブランドですよね。アコヤ真珠は、ジュエリー素材のブランドの一つと考えて良いでしょう。ここでアコヤをブランド論から考える必要が出て来ます。
 ブランドで一番大切なのは、顧客から指名買いされて始めてブランドとなると言うことです。つまり、アコヤの真珠が最高ねとか、アコヤのネックレスなら買うわと言われて始めて、アコヤというブランドが成立する訳で、真珠ならなんでも良いと言われたのではアコヤはブランドではない。売り手がいくらアコヤはブランドですよと言っても、客がそう思わなくてはブランドではないのですよ。どうもこの辺りの気合いがジュエリー業界の皆さんは分かっていない、じぶんが勝手に適当な名前を付ければ、それでブランドが出来ると思っている。花珠などはその典型ですよ、まともな客から見ればブランドどころかお笑いでしかない。おっとっと、今回は花珠じゃなくてブランドの話でした、ごめん。
 ブランドというものの性質で一番大切なことは、上から下がって下に落ちるブランドはいくらでもあるが、下から上に上るブランドはないといことです。つまりね、一万円のピアスを沢山売って大きくなった会社が、成功したから今度は同じ名前で50万円のジュエリーを売ろうと言っても、絶対に売れないということです。お客はシビアですよ、そのブランドは一万円の価値のものではあっても50万円の価値はない、50万円なら他へ行きますよと、そんなことはお見通しです。これをアコヤという素材ブランドに当てはめて見ましょうか。昔は真珠と言えばアコヤ真珠しかなかったし、結構高かった、お嫁入りや就職した時に母親に買ってもらったものを今でも大事に使ってます、というイメージから、何かこの頃テレビ通販にやたらとアコヤが出てて、やたらと安い安いと言ってる、どこの店でも割引商品にはアコヤのネックレスが入っている、お値段もめちゃくちゃに安いし、花珠って何なの、いったいどうなってるのというイメージに転落した訳です。このブランドイメージをもとに戻す、あるいは再度高めるというのほとんど不可能に近いのですよ。落ちたものは上がらないというブランドの法則が働きます。しかし、そう言って済む訳じゃない、これをどうやって元に戻すか、それこそが業界の考えるべきことではないでしょうか?

2019年3月31日