この五十年の真珠衰退を思う 第16回 分かる客と分からない客について(2014年 時計美術宝飾新聞)

 前回の心ある真珠業者だけの会の提案については、いろいろとご意見をいただきました。理想論に近く、そんなことやる業者はいないよ、と言うのが多かったですね。確かに自分がこれまでにやってきたことの一部を訂正するなり,今やっている商売の邪魔になるのですから、難しいことは分かります。しかし、何もせずに今やっていることを続けるのであれば、アコヤの将来は何も無い、雑貨の素材として、安いですよを合い言葉に売ってゆく以外に道はありません。
 最近、すこしほっとするニュースはミキモトの九州の博多近辺の相島(あいのしま)で行っているアコヤ養殖の成果です。ほぼ二年近い養殖、加工はなし、価格は従来品の一番上に近い、これが初年度すべて完売、来年の分まで予約が一杯ということ、お客さんは分かっているのですよ。いや正確に言えば、分かっているお客は沢山いる、分かっていないお客も多い、その分かっていないお客に向かって売っているのが花珠ではないでしょうか? 分かっているお客は花珠鑑別書など鼻の先で笑っています。とにかく自分の在庫のアコヤが売れればいい、分かる分からないなど関係ない、安けりゃ買う人はいるのよ、というのがそうした業者の言い分であり、花珠鑑別書を発行し利用している業者の言い分でしょう。それはそれで素晴らしい商才だと思いますよ。
 しかし分からない客にだけ向かって、いろいろと誤摩化しをしながらでなければ売れない商品というのは、情けなくないですか? たしかにこうした販売というのは、悪い意味で高度資本主義の発達した日本では宝石業界に限らない。皆が平等で、みんなが物が分かっているという前提で、実際には何も分かっていない客に対して、いい加減な商品を売っている、偽物だらけの市場、それがいまの日本ですから、なにも真珠業界だけが非難されることは無いかも知れない。しかしですね、人間、プライドというものを失ったら終わりですよ。前回にも書きましたが、君子にはなさざるあり、です。このプライドをなくして、そんな難しいこと言わないで、とにかく売れているじゃないのと言われれば、それはその通り、しかし売っている物はすべて使い捨ての雑貨にすぎない。前にアコヤもはや雑貨であると書きましたが、アコヤだけじゃない、日本で売れているジュエリーなるものの99%は、使い捨ての雑貨ですよ、正確に言えば。それが今、いらない物を売ろうとしたら、買値の十分の一以下というのは、どう言うことなのと言うお客からの不満の原因でしょう。これをまた繰り返してゆくつもりでしょうか。どうです、真珠業界が先頭に立って、直して行きませんか?

2019年3月31日