この五十年の真珠衰退を思う 第15回 君子にはなさざるあり(2013年 時計美術宝飾新聞)

 さて前回、今の真珠業界を回復させるリーダーとして、振興会に期待すると言いましたが、かなり難しいでしょう。その理由の最たるものは、振興会の主たるメンバーが養殖業者か加工卸業者なことです。小売店の数は非常に少ない、かって真珠小売店協会というのが別にありましたが、今は活動していません。これまでも述べてきましたが、養殖業者がいかに良い真珠を作ろうと思っても、小売店が高いと言って売らずに、変な紙のついた劣悪な真珠を安いですよと言って売る限り、アコヤの復興は無いのですよ。ここが非常に難しい点でしょう。
 本当にアコヤを復活する気があるなら、新しい組織を結成することでしょうね。誰でもが参加できる会ではない、あくまでも参加資格に制限をつけ、会員の過半数の賛同がなければ参加できない会ですよ。つまりですね、これは行う、これだけは絶対にしないという自己制限を守る人たちだけの会です。例えばね、売る側で言えば、花珠という言葉は使わない、加工の限度を定めて内容を明示する、鑑別書の発行元は会の主旨に賛同する機関だけに限る、などなどです。もちろん、養殖する側は一年以上は巻かせるものだけを出す。こう言っただけで、無理無理という声が聞こえそうです。
 その上で、この会が扱う真珠について、徹底した広報活動を行う、広告活動じゃないですよ、広報です。どこが今までの真珠と違うのか、何が良いのか、どこがダメなのかを若干のトラブルがあっても、お客に教えてゆく、そんなことをしたら、これまでの商売をどうするとか、それじゃ売れないとか、安い物を売っている奴には負けるとか、いろいろクレームが出るでしょうね。特に末端の小売店からは、これまでの真珠販売を一部とは言え、否定することになりますから、苦情は来ると思いますよ。しかし、これはやるしかないでしょうね。基本的には、客を信じると言うことです。私の小売商としての経験から言えば、ダメな業者ほど客を小馬鹿にします。しかしお客様はバカではない,ダメな業者を見抜くのは時間の問題に過ぎません。客をせせら笑って続いている業者がいますか?? みんな時間と共に消えてますよ。
 とにかくきちんとした真珠だけを扱う業者だけが集まる、そして真剣に養殖をしている業者の真珠だけを売る、これで良い循環だけを目指す、それ以外に奇手妙手などはありません。真珠そのものをして語らしめる、紙などは相手にしない、これが出来ないとなれば、もう雑貨として中国淡水と一緒に、使い捨てのアクセサリーの材料として生きる以外に道はないでしょう。
 多分、今が最後のチャンスでしょう。個人的な話ですが、私は論語という本があまり好きではない。しかし、たまには至言があります。孔子が弟子から君子とは——つまり立派な人のことですねーー何かと聞かれて、こう答えます。君子にはなさざるあり、と。つまり君子というのは、これだけは絶対にしないという信念がある人だということです。真珠業界も君子を目指して、花珠鑑別書などいらないと言ってみたらどうでしょうか。

2019年3月31日