この五十年の真珠衰退を思う 第14回 問題点を洗い出してみると(2013年 時計美術宝飾新聞)

 まあ、ここまでは自慢話を含めて、昔話をしてしまいましたが、ここらで今の困った状態を、どのようにして回復するか、まあ回復するかと言っても、もう私ごとき老人の出番はなくて助言だけですが、ささやかな経験からこう考えるという話をしてみたいと思います。まずは真珠業界が抱えている問題を整理してみます。
 第一はいわゆるグレシャムの法則、つまり悪貨は良貨を追放するという法則が、もろに働いていることでしょう。碌でもない半年程度しか貝の中にいない薄巻き真珠がもっともらしい紙をつけて売られている、その反面、何とか良い真珠を作ろうと苦戦している業者が、高いと言われて売れない、ということです。これには真珠は分からんと言って、勉強をしようとしない小売店にも問題はあるのです。高いから良いとは限らない、しかし良いものは高いのですよ。分からないなら勉強しろと言っても、勉強など大嫌いですからどうにもならない、たまに勉強しようと思うと、教えてくれる所が、花珠鑑別書の発行元では、正しい勉強などできない。
 第二は真珠ジュエリーの商品開発力がないことです。商品と言えば、真珠に孔を開けて糸を通すだけのネックレスしか思いつかない、真珠の婚約指輪がどうして無いのかの所でも書きましたが、そうした発想すらない。市場に出ているイヤリングやペンダント、指輪にブローチなどを見ても、数十年前のデザインと同じものが平然と店頭にならんでいる。おそらくネックレスの売り上げは、全真珠ジュエリーの売り上げの90%以上でしょう。やる気そのものが業界に無いと言っても間違いない。
 第三の問題は、真珠そのものPR力が全くないことです。つまり商品としての華がないのですよ、華がないのに花珠とはこれいかにと言いたいですよ。とにかく市場にある真珠製品は、アコヤだけでなく黒も白も含めて、旧態依然、雑誌に記事を書いてもらいたくとも、中身が何もありません。今の真珠業界が発信している話と言えば、変な紙がついて一流百貨店外商部が保証する39.800円のネックレス、イヤリングもペンダントも付いていますよ、安いでしょというテレビ販売あたりの話でしょ。とにかく、宝石の持つべき華やかさが何もない、それが今の真珠ではないでしょうか。安いという訴求以外に取り柄のない宝石なら、それは雑貨ですよ。
 最後は、業界全体の協力のなさでしょうね。一番の問題点は良いものを養殖したいと思っている業者がいても、出来たものを卸なり小売りが高いと言って扱わなければ、養殖は続けられない。良いものが出来るのなら、それを積極的に売ろうじゃないかという小売店が無ければ、続かない。いや、小売店はほとんどが卸の言いなりですから、積極的に扱おうという卸業者がいなければ、どうしようもない。安かろう悪かろうを変な紙をつけて安いですよと売るのが真珠の売り方であると卸業者が思っている間は、アコヤの改善はない。どれを取っても誰かが業界で音頭を取って改善の道を歩まない限り、変わりようがない、この音頭取りは、言うまでもなく振興会しかないでしょう。

2019年3月31日