昨年から今年にかけての業界の数字がどうなっているのかは、あまりはっきりしません。まあ、大体8000億円から9000億円というのが、近い数字で、この中で変化があるとすれば広い意味での通販の数字が増えている、それと外資系の売り上げを除けば、まあ、5000億円から6000億円未満というのが、いわゆる宝石店の売り上げと見ていいのではと思います。
最近気がついたのですが、この宝石店の売り上げなるもの、実ははっきりと二つに分かれている。つまりですね、宝石を専門にして宝石だけを売れる人たちと、別段宝石に関心も興味ないけど、働き先として宝石を売っている人たちの二つに分かれると思います。ああ、ここで宝石というのは石のことではなくジュエリーのことですよ。つまりですね、一種のサラリーマンとして宝石を売っている人たち、百貨店の外商さんとか、チェーン店の店頭に立っている女性とか、宝石店の中でも大きな会社組織の中での販売員とか、別段宝石じゃなくとも明日から漬物を売るようになったら、漬物を売るという、売ることのプロです。そうではなくて、宝石だけを売ることに興味と関心とがある、まあ言ってみれば、宝石が好きな人とに大別されると思います。
そこでですね、上記の5000億円の売り上げが、この二つのカテゴリーの販売員によって、どのように分担されているのかは私にもわかりませんが、その中でかなりの部分、おそらくは半分以上は、いわゆる宝石小売店、普通は地方店などと呼ばれていますが、東京にも大阪にも小売店はたくさんありますから、この名称は正しくない、そうした宝石店によって分担されています。そうして、都会でも地方都市でも、この小売店を今経営しているのは、ほとんどが戦後の宝石業界を作ってきた先輩たちの二世、三世なのです。
少し昔、岸内閣の頃に活躍した政商に近い人で、高崎達之助という人物がいました。東洋製罐という大きな会社と作り上げた人で、大臣にもなんどもなっています。彼は政治家としても、政商としても、多くの経済人に会っており、その中には多くの二世、三世がいました。引退するころにいろいろな思い出を語っているのですが、これが鋭い。その一つに二世、三世の問題点を挙げています。これが面白い、高崎達之助氏曰く、彼らの共通した欠点は三つある。一つはケチである、二つ目は人を信用しない、三つ目は決断が遅い。読者の皆さん、あ、それウチの社長ことかと思われる方も多いでしょう。まあまあ、抑えて、抑えて。私は宝石業界の二世、三世に、これを加えたいと思います。自分が引き継いだ仕事に、興味も関心もほとんど無い。親からもらったから、なんとなくやっている。
もちろんのことですが、二世三世にも息子や娘であれ、婿養子であれ、親を凌ぐ仕事をしている人はいます。ですが、全体の中では非常に少ない。親の代から付き合いのある卸屋とダラダラと同じような代わり映えのしないジュエリーを並べている、新しいものへのチャレンジがほとんど無い、勉強会と称して飲み会のようなところにはせっせと出かけて店にいないことが多い、集まりの結果がお店に全く反映しない、まれに社長がいない方が良くて、奥様が必死に働いているところはあります。
私は、この業界の大きな部分を占める小売店の主人の姿勢こそが業界が発展しない大きな理由の一つだと思っています。とにかく、話していても退屈、ジュエリーというものへの、身を乗り出すような姿勢が皆無です。ちんまりとした小商店の親父で満足しきっている、これではレベルの上がっている女性客にそっぽを向かれるのは当然です。親から引き継いだ店舗とか在庫とかの資産があるのですから、もう少しチャレンジ精神を持ってもらいたい。まあ、無理でしょうね、今6000軒ほどある小売店は、ここ五年で半減すると思っています。要は消える側に入らなければいいのですから、不要なお店が消えれば、一軒あたりの売り上げは増える、どうか心機一転、残る立派な宝石店になってくださいよ。期待してます。