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10年たっても変化なし-業界60年にして思うこと

 早いもので、このコラムめいたものを始めて5年ほどになりますが、それ以前からいろいろなものに書いたものも含めて読み返してみますと、その変化の無さに愕然とします。変化がないのでは無い、むしろ悪化しているのではと思い、そうした中で、平然と旧態依然の営業を続けている宝石業界の大らかさ、いや無神経さには驚きます。

 一番の大きな変化は、業界に外部からの参入者がドッと増えた事でしょう。いわく、ブライダル専門店、テレビ販売、人工ダイヤモンド、オークションハウス、買い取り再販店などなど、ほとんど伸びの無い業界に、どうして外から新規参入するのか、不思議です。まあ、外部から見ていると、汚れ仕事もない、金額も張る、利益も大きそう、それに何よりもいま宝石店をやっている人間を見ると、あんな連中でもやれるなら、おれにも出来そうと思ってのことかと想像します。業界のサイズが、全盛期の三分の一になったところに、新規参入があること自体、不思議だと思いませんか。

 こうした事が起きるのは、おそらくジュエリー流通の最後のところを担う小売店、或いは小売業者 —これは百貨店も含みますが- の怠慢に有ると思います。なにか新しい、おもしろい商品は無いのか、探してお客様に提案することもせず、日頃は来客は電池交換の客だけ、年に一、二回、催事めいたものをやり、それもほとんどは問屋が持ってくる物を並べるだけというお任せ、思い出したようにユーザー展なるものに客と出かける程度、店頭にはまともなジュエリーは皆無に近い、それでいてその町では何々さんと呼ばれていて大きな顔をしている。そんなことでいまの女性達、特に50歳台以下の知識も経験も増えた女性達が、その店で買ってくれる訳はない。売れないのは、コロナのせい、諸物価値上がりのせい、収入が増えないせいだと自己弁護に終始して皆んなで揃って安心している。あなたの店にはこないけど、どこかで買っている、それが不思議な新規参入なのですよ。

 これは十年前にも言ったこと、まったく変化はない。業界に自浄能力は無い、業界団体も何もしてない。最近、つくづくと思うのですが、業界にショックは必要、宝石業界にどこかのまともな資本が参入して、衣服界のユニクロのような販売組織が出来ないのか、十分に市場は有ると思いますよ。どこかのチエーン店のオーナーに話してみようかと思うこのごろです。十年経って、同じことを言わねばならない、残念の一語につきます。


 令和五年六月
 山口 遼 拝