アコヤ真珠に将来はあるのか

 ほぼ100年前、世界の真珠業者を仰天させ、大騒ぎになったのは、日本のアコヤ貝を使った養殖真珠であった。公平に見て、真珠本来の光沢を持ったもっとも美しい真珠をつくるのは、このアコヤ貝であることは、今も昔も変わらない。にもかかわらず、日本のアコヤ真珠に将来はほとんどないかに見える。
 バブル経済が始まる1960年前後から、ジュエリー全体の売り上げ絶好調の中で、アコヤ真珠も好調であったことはみなさんご存知の通り。しかし、その好調の陰で、業者の側に大きな変化があったこと、それが今日に至るまで、悪い影響を及ぼしていることは知られていない、それを指摘してみたい。
 それよりも前から、真珠養殖期間の短縮、つまり当年もの、越ものという御木本幸吉は知らない言葉が真珠業界に登場したことからもわかる通り、コストのかかる養殖期間を短縮しようという試みが始まっていた。真珠の美しさは真珠層の厚さに比例し、真珠層の厚さは養殖期間の長さにほぼ比例する。まともなアコヤ真珠を作ることに命をかけていた御木本幸吉存命の頃には、この養殖期間は数年以上というのが常識であり、一年未満の当年ものなどという言葉すら存在していなかった。
 コストを引き下げるために養殖期間を短縮する一方で、真珠本来の美しさを持たないアコヤを商品化するために、加工技術が異様なまでに発達した。過度の漂白、強い染材を加えたピンク染などが発達し、今やサンゴと見間違うまでに赤いアコヤのネックレスが店頭を飾っている。自然には存在しない色も問題であるが、さらに厄介なのはこうした加工がすぐに変化する、つまり退色するということだ。宝石が持つべき特徴の一つが、変化しない、長持ちするということだが、それに真っ向から逆らうものだ。
 バブル景気で浮かれている間に、こうした状況を改めるべきであった業界が、今日までに行っているのは、養殖技術の改善ではなく、質の悪いままで浜上げされた低品質の真珠を、いかに加工するかというごまかし技術の開発であった。この技術は、それなりに発達して、今やテカテカに輝くピンク真珠が街にあふれるまでになっている。もはや、養殖技術を真剣に改善して、マキの厚い良質の真珠を作ろうという業者はほぼ皆無である。技術改善といえば、いかにして染めるかという技術の改善(?)だけに専心しているというのが実態だろう。
 業界団体もあるにはあるようだが、そうした意見はほとんど聞こえず、団体自身が率先して加工技術の改善(?)だけに取り組んでいる。そうした状況の中で、アコヤ真珠の将来はほぼないと言える。おそらく次の世代で真珠といえば、南洋真珠の小粒化したものか、中国淡水の良質化が成功したものかになり、アコヤ真珠は雑貨の一部として残るものと思う。残念に思うが、変化は期待できない。

2021年11月23日