日本経済新聞の連載について思うこと

 この11月1日から12日まで、土日を除く月—金の10日間にわたり、日本経済新聞の朝刊の最終ページに「古代のゴールド十選」と題するコラムを載せてもらっています。
 世界各地の博物館、美術館に展示されている古代の金細工品についてのコメントを集めたもので、すべて私自身が実際に見たものだけを扱っています。私の若い頃から、三十代のニューヨーク駐在をはじめとして、仕事で百回以上に及ぶ海外出張の時間を盗んで、見回ったものです。各地で美術館を見るたびに、どうしてこれほど多くの金製品、ジュエリーがあちこちに展示されるほどに過去に作られ、残っているのかが、不思議でした。
 おそらく、平均寿命も20歳にも届かない、どこを見ても敵やら野獣やらが溢れており、食うものもギリギリであったに違いない古代の人々が、貴重な金属を使い、今でも復元できないような技術を駆使して、時間をかけて、こうした実際の生活には全く役に立たないものを作り続けたのか、これは今でも理解したとは言えません。
 ここに集めた10個の作品は、純粋のジュエリーとはちょっと遠いのですが、素材、技術はジュエリー作りと同じものです。電気もなく、バーナーもない時代に、どうすればこれほどに精緻な作品ができるのか、これは今でも私にはわかりません。しかし、こうした作品はジュエリーと同じ思いと技術で作られた、つまりジュエリーの先祖であるというのは事実だと思います。こうした作品を知ることによって、ジュエリーの不思議さを理解できれば、それを作る上でも使う上でも、自信がますのではと思い、日本で唯一のクオリティペーパーである日本経済新聞の話に乗ったのです。
 という訳で、どうかこの不思議なコレクションを見てください。
そして将来、こうした美術館のある街に、あるいは他の博物館でもいいのですが、行かれることがあれば、ちょっと時間を割いてこうした不思議な作品たちを見てください、とお願いする次第です。必ずや、ジュエリーに対する理解と愛着が増すものと信じています。駄弁を弄しましたが、これが私の思いです。

古代のゴールド 10選