この連載もこれで八回目になりますが、色々な方面からご意見を賜っています。その中で私がびっくりしたのは、山口さんは真珠が嫌いなんでしょうと言う意見でした。とんでもない、不肖山口、真珠くらい好きな宝石はありません。好きだからこそ、今の花珠鑑別書とかが付かないと売れない真珠は嫌いですし、それを売る業者も嫌いです。真珠は白くて丸いだけの、意味の無い紙を付けなければ売れない宝石ではない、もっともっと調べれば楽しい、ユニークな真珠がいくらでもある、真珠のユニークさを殺しているのは真珠業者そのものですよ。まさに無知は力なりです。
とは言っても、私も最初から真珠の多様性を知っていた訳ではありません。仕事で主に欧州を旅行するようになって、なんと真珠にはアコヤ以外の実に面白い、不思議な真珠がある、それを使ったジュエリーが無数にあることに気がついたのです。気がついた後は、その不可思議な真珠を意図的に探し、文献を買いまくり、業者の所まで押し掛けてゆき、良いと思った真珠はミキモトで製品にするために買い、まあミキモトの営業の責任者であるという特権を振り回して、いろいろな業者に会いました。彼らに共通しているのは、真珠が好きだと言うこと、いやもっと言えば真珠に淫しているほどに自分の扱う真珠を愛していることです。もちろん商売人ですから、売れるということには何よりも気を使います。だけど売れるなら嘘もつきます、意味の無い保証書をつけます、品質に影響の出ることが分かっている加工もします、ということは無かったと思います。私が手掛けた楽しい真珠の筆頭はコンクパールですが、これは別項で書きます。
真珠を白く丸いものと決めつけ、売り上げの90%以上を単なるネックレスに、それも芸の無いチョーカーだけに依存するという業態を作ったのは日本の真珠業者ですよ。アコヤだけが真珠ではない、白蝶、黒蝶はもちろんのこと、中国淡水にもまともな真珠はある、アメリカにも養殖真珠はありますし、天然真珠となれば色も形も種類も千差万別、さらに形状で言えば、丸や半円だけでなく、バロックもケシもシードパールもある。そうした複雑さを勉強する気もなく、国内に居座ったままで入手できる真珠だけが真珠だと、またコンク真珠の項目で書きますが、私がコンクを宝石として日本市場に紹介した時、業界の幹部と言われる人がこう言ったのを今でも覚えています。コンクなんて真珠じゃない、あれは稜柱層のもので真珠層ではないから真珠とは言えない、とね。貝が作り出したもので人間が美を認めるものは真珠でしょう。稜柱層だの真珠層だの、学者面した知ったかぶりで、美しいもの、誰も知らないものを欲しいと言う女性の気持ちをまったく汲んでいない。こうしたいろんな真珠を組み合わせ、ネックレス以外のものにも挑戦して始めて面白いパール・ジュエリーが出来るのですよ。そうした楽しさを殺しているのは真珠業者自身ですよ。