この五十年の真珠衰退を思う 第8回 真珠養殖の宿命について(2013年 時計美術宝飾新聞)

 これまで六回は目下のネガティヴな話を続けましたので、ここらでこれからどうなると言う話をしてみたいと思います。まあ、将来予測もネガティヴな話になるかもしれないのですが、将来なら変られますからね。
長い間、世界中の真珠業者の動向を見てきますと、真珠の養殖には避け難い宿命があると思います。それは常に供給が需要を上回るということです。つまり売り切れるよりも多く、どんどん養殖されるということです。その理由は簡単です。真珠養殖を行っている国を考えるとすぐに分かる事、つまりですね、日本とオーストラリアを除けば、中国、インドネシア、ミャンマー、フィリッピン、タヒチ、どれを取っても世界の最貧国、あ、今こんな言葉は使えない、発展途上国の最たるものです。そうした国々で真珠を養殖している人々に向かって、真珠は多すぎるから他の仕事に就いた方が良いよと言っても、相手にされない、他の仕事がないのですから。また質を上げて単価を上げると言っても、理解されない。来年、今年の二倍の収入が欲しければ、二倍の真珠を作る、数量を据え置いて単価アップで収入を増やすということは彼らの理解の範疇にはないのです。かくして、どんどん真珠養殖の数量は増え,結果の生産量は需要にかかわりなく増える、これが真珠養殖の宿命です。世界中の養殖真珠で、生産量が減っているのは日本のアコヤだけ,普通は生産量が半分になれば、単価は倍以上に上がる。だけどアコヤの生産量は六分の一程度まで減っているのに、単価も半分以下になっている。不思議でもなんでもない、買い手にとって真珠は真珠、アコヤである必要はない、白蝶でも中国淡水でも真珠であると、気にしないで買っているということですよ。アコヤに愛着を持つ人にはちょっとシビアな意見ですが、これからのアコヤを考える場合には、この前提を頭に入れておく必要があります。アコヤの都合だけで,真珠の世界が動く事はありません。
真珠の総量が増えて行く中で,アコヤをどうして復活させるかについては、別の章のなかで述べてみたいと思いますが、とにかく言えることは数量的な復活を目指すのではダメと言うことです。かっては二万貫あったのが四千貫に減った,もう一度二万貫を目指そうと言う方策だけは絶対に取るべきでない、これだけははっきりしています。むしろ数量減を逆手に取るべきで、より上質でより高価でより美しいアコヤをしっかりと養殖する。数千貫でいいと思いますよ、しかし業界は真っ逆さまの方向へ進んでいますよね。これは何も真珠業界だけではない、宝石業界すべてが安かろう悪かろうの方向へ向かっています。不景気で30万円のジュエリーは売れないから、5万円のものを六個売れば良いと安い物を並べる、それが基本的な考えでしょう。もちろん、六個売れれば売上高としてはカバー出来ます。しかし六個は絶対に売れない、精々が二個か三個、これの繰り返しが業界売り上が三兆円から一兆円まで落ちた原因ですよ。30万円の商品が何故売れなかったのか、売れる30万円とはどんなジュエリーなのか、全く考えない。真珠でもそうでしょ、39,800円でも無理、それならイヤリングを付けて値段は据え置き、それが今のアコヤですよ。

2019年3月31日