私は内心、この花珠問題は宝石業界が抱えた爆弾の一つだと思っています。一つと言うからには、他にもあるのと聞かれそうですが、取り敢えずノーコメントです。共通の認識と理解が全くない花珠という言葉を使うこと自体がおかしいのですが、業界として、そうした不確実さを、特にお客に対して意味不明であるといういい加減さを、業界内で検討して纏めるとか共通の定義を定めるとかの努力をせずに、何となく都合がいいじゃないかと放置する、現在のアコヤ業界に対して非常に危うさを感じますし、不信の念を禁じ得ないのです。
そもそも半年もしないうちに基本的な性質が変わるような今の真珠に対して、一定の内容を保証するがごとき鑑別書なり保証書を発行するということが、可能なのでしょうか。真珠は有機物で経年変化は避けられないと言うのは、詭弁に過ぎません。経・年で変化するどころか、経・月で変化する、しかもその原因が人為的なものであることがはっきりしている、だから仕方がないのだと言うのは、どう見ても通用する話ではないでしょう。これを十年以上に渡って、売るのに都合が良いからと放置してきたのが業界ではないでしょうか。これで今流行の消費者保護の視点から取り上げられて、訴訟に勝てると思いますか。私がこの問題は爆弾である、早く手を打つべきだと言うのは、ここにその理由があります。
私の見るところ、業界人のほとんどはこの問題を認識していると思います。だけどまあまあ、売るには都合が良いし、良いじゃないか、そんな難しいこと言わなくても、というのが業界の基本姿勢であると思いますよ。確かにどんな業界にも影の部分というのはある、そして我々商売人としても、売れてなんぼの世界に生きていることは事実でしょう。私としても、それを頭から否定するほど偉い訳ではない。しかしながら、物には限界があると言うのも事実です。自分が扱う商品のもっとも基本的なことに嘘をつく、そうしなければ売れないということは、すでにこの限界を越えていると私は思います。何よりも問題なのは、真珠業界の人々がこのことを認識していながらーー別に後ほど書きますが、宝石業界、特に小売店の店主などはまったく認識が無いのですがーー取り敢えず都合が良いというだけで、このアラアラ花珠とかホレホレ花珠鑑別書を放置しているということでしょう。これは限界を越えた無責任であると私は思います。こうしたことを調整すべき真珠振興会が何を振興してきたかについては、稿を改めて書きますが、すくなくとも今のところでは、まったく動きはない。
こうした中で、アコヤの品質はますます低下し、単なる価格競争だけの商品に堕しています。真面目に良いアコヤを作ろうという人ほど苦労する、まあ、これには良い珠を作れと偉そうに要求して、実際に出来ると高いと言って扱わない卸業者や小売店主にも問題はあるのですが。花珠鑑別にだけ拘るのはこの連載の主旨ではないので、これまでにしますが、ともかく、それは単なる私文書に過ぎないことだけは認識しておいて下さい。