この五十年の真珠衰退を思う 第3回 色々な芸を繰り出す業者たち(2013年 時計美術宝飾新聞)

 いま流行りの花珠鑑別の問題に到る前に、加工技術が生まれてから今日にいたるまでの間に、養殖真珠の業者の皆さんが市場に繰り出したユニークな技術を紹介しましょう。実にユニークで、その創意工夫には感動すら覚えますが、一貫して共通しているのは、お客にとって何が良いことかという視点の欠如でしょう。ある技術が出来たとしても、それが最終的にお客様にとって役に立つことか、良いことかという問いはまったく無く、業界の自己都合だけで判断するという、見事な共通点があります。
 私が仰天して一番腹をたてたのは蛍光染料の注入でしょうね。これには私自身の客がからんだ面白い話があります。バブル全盛のころの話ですよ。私の客のお嬢様で、凄い美人がいたのです。美人には珍しく、恐ろしく頭が良い、退屈だからと言って一年足らずでGGを取るほど宝石にも興味がある人でした。時はバブルの絶頂期、かのジュリアナ東京が全盛のころの話です。例のお立ち台の常連だったのですから、いかに美人かお分かりでしょう。彼女がワンレン・ボディコンーー懐かしい名前ですねえーーの服に似合う真珠の長いネックレスを買ってくれたのです。ところが翌週、山口さん、アコヤに蛍光性があるのといきなり怒鳴り込んで来たのです。
 彼女の言い分はこうです。昨日、新しいネックレスを付けてお立ち台で踊りまくって、友達の所に戻って来たらこう言われた。踊りも素晴らしかったけど、新しいネックレス、燦然と輝いていたわよ、と。それでネックレスを見直してみると、なんか変に輝いているではありませんか。なんせ本人はGG様ですからね、山口さん、アコヤに蛍光性はあるの、と来ました。ある訳ないでしょと言ったら、じゃあこれ調べてよと売ったネックレスを渡された次第です。会社に戻って調べさせたら、なんとこってりと蛍光剤が染み込ませてあると言う結論、納めたのは伊勢の業者でしたが、即刻取引停止。ですがね、その時に感じたのですが、アコヤに蛍光剤を染み込ませて何とも思ってない、その方がずーっと奇麗に見えますよと言われたのには驚きましたね。ミキモト側の仕入れ担当もあまり感じていない、とにかく業者同士で集まって、酒を飲みゴルフをしながら、なあなあでやっている、これが伊勢や神戸の業界の実態かと思いましたね。それが正しいことなのか、客にとって益になることなのかという視点はどこにもない。この基本的な問題は、今の花珠騒ぎに至るまで、少しも変わらないと思います。最近では無調色だのナチュラルだの、加工はしているけど染剤ははいってないから無調色だと、しかもナチュラルと言う言葉を使う。真珠の世界でナチュラルと言えば天然真珠のことでしょう、あの青灰色の不気味な真珠がナチュラルとはこれ如何にですよ。話が横にずれましたが、次回こそ花珠の由来を語りましょう。

2019年3月31日