合成ダイヤモンド騒ぎについて思う

 昨今、宝石業界で一番賑やかのは、合成ダイヤモンドについての講演会や記事であろう。作られ方から始まって、鑑別の方法、さらにその商売に対する影響に至るまで、まあ、この業界にこんなに論客がいたのかと驚くほどに多い。しかし、

私見ではあるが、何をそんなに騒ぐのか分からない、業界として明確にしなければいけないことは一つしかないと思うのだが。
 それはお客が混同しないようにするということに尽きる。つまり、白くて光る石があれば、それは天然ダイヤモンドなのか、人工ダイヤモンドなのか、鉛ガラスなのかを、絶対に混ぜないで、はっきりと分かるようにして客に提示すること、そのどれを選ぶかはお客の自由で、混同することのないようにするのが業界の唯一かつ絶対にするべきことだ。
 聞くところによれば、GIAはシンセティックという言葉を使わないで、ラボラトリィグロウンという表記にするとか、なんで難しい英語を使うのか疑問である。こうした事例は昔京セラの人工色石が登場した時にもあったことで、最初の頃は、京セラもculturedという言葉を人工石に使おうという提案を真珠業界にしてきたことを思い出す。
 人工ダイヤモンドで業界がするべきことは、合成、人工、シンセティック以外の接頭語をダイヤモンドにつけて売ることを厳禁することであり、もし、天然と人工のものを意図的に混ぜて販売する業者、あるいは人工であることを表示しないで、不思議な接頭語をつけたダイヤモンドを売る業者に対し、そうした行為を禁じることで、場合によっては、業界団体の名前でそうした業者を公表して、お客の誤解を招くことのないようにすることだろう。聞くところによれば、不思議な接頭語をつけた人工ダイヤモンドがすでに販売されているとか、いつになっても業界人の考えることには変わりはないなと、つくづく思う。
 くどいようだが、大事なのは天然と人工のものとを混同しないことであり、意図的に混同を図る業者がいれば、それは業界として排除しない限り、業界の健全化は計れないと思うのだが。私は、人工が天然に劣るとは思わない。しかしどちらかを選ぶかは、お客の自由であり、それを意図的に売る側が操作することだけは、絶対に許されないことだと言っているのだ。
 長い目で見れば、京セラの場合と同じように、お客が自由に間違いなく選ぶことができれば、人工ダイヤモンド騒ぎは落着すると思う。もし業界の中に、これを混同させて利益を図ろうとする業者を放置して、ジュエリー産業の根幹をなすダイヤモンドに客の信頼が失われれば、それはジュエリー産業そのものが消滅する第一歩となると思う。いつもながらの、鑑別業者や宝石学者の大騒ぎも結構だが、それは業界内部の勉強の問題であり、大切なのは、業界として何がお客にとって大事かをしっかりと認識し、紛らわしい接頭語をダイヤモンドにつけて売ろうとする業者や、両者を混同して扱う業者を排除することではないか。全てはお客の視点から見れば自明のことだと思うのだが。

2019年6月17日