「真珠指針2020」を読んで真珠業界の将来を思う

 このほど、真珠振興会が発表した「真珠指針2020」という文章を読まれた方は少ないのではないでしょうか。堂々78ページもあり、文章もしっかりしていて、内容的にも定義から始まり、歴史、宝石としての基準、加工の詳細と問題点など、基本的なことは網羅しています。グーグルで真珠指針2020と開いて、ダウンロードのところから全文が読めます。宝石としての基準も、形、巻き、テリ、キズ、色と、詳細に定義しています。どうも最近、真珠についての宝石学的な基準を定めようという動きが多く、GIA JAPANも東京でのGEM FESTなる催しの一環として、真珠のセミナーを開催するとか、こちらは真珠の評価要素を7個あげ、ダイヤモンドの4Cの代わりに7Cだとか、賑やかです。色々と問題のあった真珠業界も、これでやっと普通になったのかと安心したのです、が。

 真珠業界での最大の問題は、加工にあることは皆さんご存知の通りです。このコラムでも、最近、桃色珊瑚と見間違うアコヤ真珠のネックレスについて書きましたが、今やアコヤ真珠の加工については百鬼夜行、業者でも、もう何が何だかわからないようです。ここで業界が使ってきた言葉に、調色という用語があります。まあ、これはネックレスなどを作るのに軽度の加工を加えて色を整えるという定義に、真珠業界はしていました。調色という言葉は、広辞苑などを引けばわかることですが、画家が自分の必要とする色を出すために、絵具を混ぜ合わせることを意味し、真珠の色を変えることなどはどこにもない。まあ、それは措くとして、軽度の加工ということの定義がどこにもないのですよ。どの程度までなら、調色なのか、どこからが染色なのか、いま市場に溢れているドピンクのアコヤ真珠は、どう見ても染色でしょう。だけど業者は調色ですと澄ましています。この真珠指針でも、そこのところは明瞭でない。

 私がこの染めについて神経質になるのは、それが安定しないということ、つまり経年変化して激しく退色するということです。ひどいものですと、半年で変わる、これは宝石として持つべき特徴、つまり長年使っても変化しないという条件にモロに反する。これが宝石と言えますか???

 ついでながら、どうしてこんなにピンクにしたのかと大手の業者に聞きましたら、中国市場で喜ばれるからだとか、香港フェアで売るために何でもあり、さすがにその会社の中でも、やりすぎじゃないかと言われ始めているとか。

 さらに業界では問題視されてきた花珠なるものについても、指針では、それは定義が明瞭でなく、しかも業界では業者間のみで使われてきた用語であり、お客様に対して使うべきではないと言い切っています。これは立派な見識です。細かい点で気になることは他にもあるのですが、この二つ、つまり染色なのか調色なのか、それと花珠をどうするということだけについて、現実の業界は全くの無反応、相も変わらず、ピンク真珠ですよ、花珠ですよと、不思議な紙を振り回して売っています。要するに業界としても、業界団体としても、一応格好のつくものを出しておけば、実態はどうでもいいというのが、業界あげての了解事項だと思えるのですが。基準は作った、だけどそれに従わなくとも、まあいいさと言っているのが真珠業界なのでしょうか。国際条約には加盟するが、都合の悪い条約は無視するという、真珠業界が大好きの中国政府にそっくりですね。

 私見ですが、あと四、五年で世界の真珠のランク付けはこうなると思います。一番が天然真珠、ついで白蝶養殖真珠、ここで大きな縦線が入って、ついでアコヤ養殖真珠、黒蝶養殖真珠、中国淡水養殖真珠、最後に模造真珠、となると思います。大きな縦線の左は宝石素材、右は雑貨という、宝石と雑貨の分かれ目、新しい区分です。業界あげて、ひたすら雑貨への道を歩んでいるとしか思えないアコヤ業界の皆さん、再考されてはいかがでしょうか???

天然、白蝶   ■  アコヤ、黒蝶、中国淡水 最後に模造
宝石素材    ■  雑貨素材 
 

2021年6月16日