七月も暇ですな

 七月なら少しは忙しいかと思っていたら、まあ、あまり変わりませんね。横浜で講演会をやったのですが、クラフトマンの皆さんが真面目に聞いてくれたのはいいのですが、とにかく、今の業界で一番割を食っている人たちで、その真面目さがとても気になる講演でした。

 本を読むのもいささか飽きて、少しは真面目な本でも読まないかと思って、漢詩の本などひろい読みしていたら、またもや気になる宝石絡みの文章にぶつかりました。詩の一節ですが、「恨血千年土中碧」というのですよ。作者は李賀、二十代で亡くなった中唐の詩人です。日本では奇抜な才能を持った人を鬼才と言いますが、中国で鬼才と言えばこの李賀一人のこと、中国語で鬼というのは幽霊のことですから、非常に陰に籠った難しい言葉を使うことで有名です。この恨血千年土中碧と言うのは、恨みを持って死んだ人の血が、土の中に落ちて千年たったら、緑色の石になる、という意味です。この碧という言葉、漢和辞典を引きますと、緑あるいは青色の宝石のこと、漢詩の解説などではエメラルドだなどと言っていますが、どうもおかしい。

 彼が生きたのは西暦で791−817年、わずか27歳で死んでいるのですから、この時代の中国にエメラルドがあったのか。まあ、伝説ではローマ皇帝のネロは眼のためにエメラルドのメガネを持っていたそうですし、プリニウスの本にも出ていますから、エメラルドは存在してとは思いますが、中国にあったのかとなると、大いに疑問ですよね。しかもエメラルドが大量に流通するのは1500年代の中南米のムゾあたりの鉱山が発見されてからのこと、李賀がエメラルドを知っていたとは思えない。となると、これは翡翠かなと思えるのですが、それでもジェダイトではない、ネフライトでしょうね。ネフライトとなると、土中に埋まっているというイメージはない、むしろ「ごろた石」のような形でホータンあたりで出てくる石ですよね。となると別の石、ペリドットとかトルマリンとか、考えるときりがない。まあ、なんでもいいやと思えますが、このイメージ、恨みを持った人の血が土の中で千年経つと緑の宝石になるというのは、なかなかに凄いと思えませんか。まあ、女性に売るときには役に立つ知識とは思えませんが。それだけでも、まあ、調べるのに半日はかかりました、私も暇ですよね、本当に。