これは必見、アル・サーニ・コレクション

上野の国立博物館の東洋館で、ひっそりと開催されているアル・サーニ・コレクションと呼ばれる古代美術の名品だけを集めた展覧会、これはジュエリーを好きな人には必見の展示会です。そんなにジュエリーが展示されているのと言われれば、ジュエリーだけの展示会じゃない、もちろん、古代の金工技術の粋を集めたような、ジュエリーや食器などがありますが、問題はそれじゃない。

展覧会のタイトル「人、神、自然」が示す通り、おそらく平均寿命も20歳にもならなかった古代の人々が、自分たちの姿、そして崇拝する神々、それらを取り巻く自然の姿を、金銀、青銅、石、焼き物などを通して表現したもので、そのシンプルさの中に美を求めた古代人の思いを、恐ろしいまでに精緻な技術を使って、表現した作品が117点並んでいる。決して大きな展示会ではなく、部屋も二部屋だけで、特別料金も取られない質素なものだが、その展示品のレベルは、ここ数年来日本で見たものの中で、最高といえる。

これほどの優品が、どうして発掘国の政府に召し上げられたり、美術館に収容されないで、市場に流通し、個人のコレクションとして見ることができるのか、不思議に思える。

純粋のジュエリーもあるが、一番のポイントは、こうした物を作ることによって、古代人たちが自分たちの身を飾り、それによって暗闇に潜む邪悪なるものたちから我が身を守ったという、ジュエリーの発生状況がしみじみと分かる。展示物は、エジプト、ギリシャ、ローマから始まっているが、特に目を引くのは、中央アジアの草原の民族が作ったもの、アラビア半島の先住民たちの作品、さらには中南米の諸民族が作った奇抜な仮面など、これまでに見たこともないような作品が並ぶ。特に目を引くのは、多くの金銀細工品で、古代の社会において、金工細工師が高く評価されていたのが分かる。アイルランドで作られ、ルヌーラと呼ばれる首飾りの完品も初めて見た。思わず、興奮してしまったが、近来稀に見る展示会である。これに比較すると、近年のブランド品の展示会など、アホの塊にしか見えない。2月の9日まで開催している、ぜひお勧めしたい。