見ても見なくとも ~新美術館のカルティエ展~

 おそらくこれで日本国内では4回目になるカルティエの展示会が開かれている。

10月の初めから展示しているので、もっと早く書くべきであったが、なんとなくどうでもいい展示会という気がして、遅くなった。
 今回の展示物は1970年以降のカルティエの作品を展示したもので、ほぼ今の商品に近いものだ。カルティエらしく70年以降のジュエリーに、いかに過去の作品を生かしているかという触れ込みで、30年代以前の名作もアイデアの元となったものとして、こみ混ぜて展示してある。なぜ70年代以降なのか、カルティエの歴史に詳しい人ならすぐに分かることだが、30年代にカルティエの三代目のルイ、ジャック、ピエールの三兄弟が世を去って以降、60年代の終わりまで、同社のジュエリーは多くが見るに耐えないものであった。多くは、趣味の悪いアメリカ人相手の大振りで品のない作品が主で、ビブ、よだれ掛けと呼ばれた幅のあるネックレスが代表である。
 70年代から経営者が変わり、新しいカルティエが登場した訳で、そこから今日にいたる世界の成金相手に作ったジュエリーを展示したということだ。デザイン的には、自社の過去のデザインを応用したものが多く、原型のものよりも多くの宝石を使い、デザインの柄も大きくなっているのが共通した特徴である。ほとんどが客に売れたもの、つまり最近の商品を借用しており、日本人女性の感覚には、ほとんどが合わない。
 たくさんあるジュエリーをずーっと眺めて行って、貴方が思わず近寄って目を凝らしたくなる作品がどれかで、貴方のセンスの程度を判断できる良い機会だ。近寄って良く見たいと思ったジュエリーが、1930年以前のものなら、君の美的感覚は褒めて良い。逆に、ほとんどが70年代以降のものなら、良いカモにはなれるが、美的センスには疑問がある。まあ、そうした意味でお勉強の良い機会かもしれない。
 内容の乏しい展示会の常だが、ディスプレイには凝っており、昔ロンドンで開催されたJARの展示会の真似か、真っ暗闇に近い中で、ショーケースだけが光り輝くという陳腐な展示で、年寄りが何人ひっくり返るか、楽しみである。
 12月中頃まで、まだひと月ほど期間がある。暇なら行ってみたらという程度の展示会である。