これは必見、ウイーンのジュエリー

 前回のトルコ展を開催した新国立美術館については、酷評したが、今回のウイーン展は十分に見るに耐える展示会になっており、ウイーン工房で作られた数少ないジュエリーを実見できる稀な機会となっている。
 これは19世紀末を中心としたハプスブルグ帝国の首都であったウイーンでの芸術活動を、まあ、ヴィーダーマイヤーの頃から、クリムト、エゴン・シーレ、ココシュカなどの時代までの絵画やグラフィックを中心に集めたものだが、我々宝石商にとっては、ホフマンやモーザーという、あまり日本では知られていないウイーン派の作家のジュエリーや銀器などを見る珍しいチャンスとなっている。
 私もアンティークジュエリーを扱い始めて20数年になるが、その間にこのウイーン派のジュエリー、特にホフマンの作品は一度も入手したことがない。それほどに作られた数も少なく、多くは個人のコレクションに入って出てこないもので、見ることすら難しいジュエリーである。それが今回は数点ではあるが、他の作者のものと並んで目にすることが出来るのは、ジュエリー好きにとっては何よりの楽しみである。
 ホフマンたちが活躍したのは、フランスなどで言えばアールヌーヴォーの全盛期である1900年前後と同じであるが、フランスやベルギーのジュエリーのように、野放図に曲線を使うのではなく、金属で作った四角あるいは円形の枠の中に、きっちりと自然の文物をバランスよく配したもので、ラテン系の国々のものと比較すると、いかにもゲルマンの香りを感じる明晰なデザインのものである。銀器なども、同じように直線と角のある、かっちりとした感覚のもので、日本では知られていないだけで、好みから言えば、こちらの方が好きという日本人は多いと思う。
 まあ、能書きは置くとして、クリムトが描く名作「エミーリエ・フレーゲ」の絵がある部屋にあるブローチと、それに続く「ウイーン工房の応用芸術」と題する部屋の銀器やらジュエリーやらを是非見てもらいたい。ジュエリーと言えばフランスとイタリアと思っている我々にとって、ウイーンと言うこれまで未知に近い世界のジュエリーというものを実感してもらう良い機会だと思う。
 他に絵画も素晴らしいものがあるが、それよりも驚くのはグラフィックの素晴らしさで、ローマ字というものをこれほどまでに綺麗に美術として表現できるのかという驚きを感じることができるだろう。まあ、おそらくウイーン工房のジュエリーを日本で見ることが出来るのは、そうはないと思う。八月五日までだから、まだ間に合う。
 まああまり褒めると美術館が思いちがいするといけないので、文句も並べておくが、これほどの展示会をやっているのに、正面玄関から入っても、どの階のどこに展示室があるのかが分からない。訳のわからん素人集団の展示会のようなものとごちゃ混ぜになっているのは、いかにもお役所仕事、もう少しメリハリを付けてもらいたい。会場は正面入り口から1F右手奥の展示室である。