家庭画報4月号への寄稿

今こそ、
美の力宿る「日本のジュエリー」を見よ

少し古い言葉ですが、眼福という言葉があります。目の正月という言い方もあるようです。ともに、美しいもの、素晴らしいものを見ることで、幸せになり、幸福感を得られることで力が戻り、邪悪なものを打ち払うということのようです。
 いま、我々に必要なのはこの幸福感ではないでしょうか。ほぼ一年、コロナの大騒ぎで、明るいニュースや楽しい話など、ほとんどありません。こうした時こそ眼福が必要ではないか、それがこの日本のジュエリーを集めた大特集の理由です。今の日本の宝石業界を代表する企業を六社、素材集めからデザイン、作りまでを一人で一貫してやっているデザイナーを四人、それぞれの最新の代表作とも言えるジュエリーを、編集者と共に伺って集めたものです。それぞれの特徴や良さは別途に書きましたが、日本人が作るジュエリーの最大の特徴は、デザインと作りの繊細さにあります。体からはみ出るような大きな宝石を使った、やたらと大きいジュエリーは一つもありません。この隠れたような、デリケートな美しさを追求することこそ、日本のジュエリーの特徴です。
 太古の昔、世界中に散らばっていた人類の祖先が、みな一様に装身具を使ったのはどんな理由があったのでしょうか。装身具は、食器やお祭りの道具である祭器と共に、どんな遺跡からも必ず出土します。実用性の全くない装身具が、古代の人間にとってこれほどに大切であったのかは、様々な理由が挙げられています。もっとも正しいと思われる理由は、美しいものを身につけることで、太古の闇の中に潜む、悪しきもの、凶々しきものから身を守るためということだったと思います。
 これと同じ思いこそが、コロナ騒ぎの今、我々にとって大事なことだと思います。美しいものを見る、使う、手に取るといったことで、眼福を得る、それによって悪しきものを追い払う、それこそが今の日本人に求められているのではないでしょうか。
 ここに集めました数十点のジュエリーは、日本人としての美を感じさせる優れたものだけです。使う使わないとか、買う買わないとかではなく、美しいものを眺めることで、幸せな気持ちを取り戻し、悪しきものに打ち勝とうではありませんか。楽しんでいただけることを期待しています。

2021年3月6日