もっと作る人を大切にしよう

 昨日五日、横浜の土屋昌明さんたちが数年前に立ち上げた神奈川貴金属技能士会から依頼されて、講演を行いました。多分、これが最後の講演だと思います。これまでにも大阪の丸川隆英さんの依頼で、やはり大阪地域の作り手の皆さんに講演を、数年前には名古屋の首藤治さんの依頼で中京地域の作り手の皆さんを相手に、同じような講演をしました。まあ、この三人とも、目出度いことに黄綬褒章を受けた人たちで、これで横浜、名古屋、大阪と三都市で作り手、クラフトマンの皆さんと話をしたことになります。その結果を少し書いてみます。

 三回の講演を通じて感じたことは、作り手の、つまりクラフトマンたちの真面目さ -業界人では一番真面目だと思います- であると同時に、今の宝石業界の中で、一番のしわ寄せを食っているのが彼らであるという事実です。どうも宝石業界というところは、様々な仕事を協調して分担してやって行くという気持ちのあるところではなく、順番に威張りあっているかのような印象を受けます。つまり、小売は卸業者に威張り、卸はメーカーに威張り、メーカーは実際の作り手に威張る、その結果、最も困っているのが実際の作り手であるという現象が起きていると思います。業界は「フンゾリカエラー」の皆さんで溢れかえっています。

 まともなものを作るのに2時間かかる場合に、1時間分の金しか払わないのであれば、1時間でできるものしか作れない、これは当然の経済的原理です。その結果、安かろう悪かろうのジュエリーが巷に溢れる、作り手の気持ちとしては憮然たるものがあると思いますが、2時間かけたのでは食えない。これが最終的な作り手たち、つまりクラフトマンの皆さんをいじめた結果です。

 彼らと話をしていて、一番感じるのは、なんとかして良いものを作りたいという気持ちです。しかし実際にくるのは1時間で作れという注文、しかも彼らのほとんどは、受け身の仕事ですから、そこで受けるフラストレーションは非常に大きなものがあります。こうした状況で、お客を唸らせるようなジュエリーができたら、それは奇跡というものです。真面目なクラフトマンの皆さんに、話をしていて一番苦痛なのは、彼らが自分からできることを提案するのが非常に難しいことにあります。

 これからの宝石市場で、おそらく起きてくることの一つは、作り手が自分で販売するというルートだと思います。すでに、名のある作り手たちの一部は自分のブランドを立ち上げていますし、このところ増えてきた女性のデザイナーの中にも、自分で作って、少しづつではあれ自分で販売する人が出てきています。私は、こうした人々を少しでも応援するつもりで、数冊の本を出しました。これからも、いくらでも応援したいと思っていますが、何よりも大事なのは、業界全体が実際に物作りをするクラフトマンの皆さんを、叩くのではなく、いっしょにより良いものを作って行こうという姿勢を持つことではないでしょうか。まあ、そうは言っても、おそらくは十中八九、甲府の韓国人の方が安いもんねと言われるだろうとは思っていますが。まあ、それではいつまでたっても三流の業界のままでしょうがね。

2020年7月6日