格言に見る業界ばなし その8 君子には・・・ (2014年 時計美術宝飾新聞)

 最近、高齢のせいか、物忘れがひどくなり、この名言の出典が分からなくなりましたが、中国古典であることは間違いない、論語かなと思って読み返したのですが、出てない。「君子には、なさざるあり」というのが全文です。つまりですね、まあ立派な人と思っていただければいいのですが、君子とはどういう人なんですかと弟子が聞いたのに師匠が答えた文章です。なさざるあり、と言うのは、これだけは絶対にしないという決意がある人という意味です。つまり、立派な君子というのは、いくら利益があっても儲かっても、これだけはしないという自己規制のある人物ということになります。今の中国には君子などいそうにもないですが、昔はいたのでしょうね。
 さて、翻ってわが宝石業界に君子はいるのでしょうか。
悪い冗談は止めて下さいという声が聞こえそうです。現在の宝石業界の最大の特徴は、売れさえすれば何でもあり、自分はこれだけはしないという気持ちのある業者は指を売る程しかいない。儲かるものなら、何でもあり、何でもやりますというのが基本ですよ、君子などいる訳はない。
 商品についての基礎用語すら決まっていない、だから鑑別鑑定の書式なども不統一、本人以外には通用しない品質表示の用語がまかり通る、二重価格など当たり前、お客に言っていることも凄いですよ、この宝石は将来値上がりして儲かる、資産価値のある宝石とはこれ、この石はまもなく採れなくなります、流通経路を短縮しているから安い、うちの社長はインド、イスラエルに直接出向いて買うから安い、あれまあという程に言いたい放題。これに輪をかけたのがデザイナーの皆さん、胸に大きなバラをつけて、エコを考え宇宙を考え、日本の美を追いかけ、イタリアのセンスを取り込み、なんとかコンテストのグランプリ受賞だとかなんとか、まあまあ、これまた言いたい放題、その臆面もない滔々たる弁舌には、デザイナーになるよりも弁護士にでもと思いたくなります。だいたい、説明しなければ分からない美は美じゃないと思いますが、間違っていますか?
 こうしたことを統一するのが業界団体の仕事だと思うのですが、そんな仕事をしようと言う団体など、どこにもない。団体の長となる人物にも、そんな気概のある人物はいない、ただただ将来、勲章を貰うことしか考えていない。だからやたらと団体があるのですよ、何もしないのに団体だけなら、地方団体も加えれば優に100は超えるでしょう。昔トヨタの偉いさんと話をしていて笑われましたよ、年商一兆円の業界に団体が100もあるなら、トヨタの中に団体が1000あると同じだね、と。
 そもそも会員資格を問わない団体なるものに意味があるのか、それを疑う人が誰もいない、会費を払えば会員だというのなら、会員である意味は全くない、少なくともお客様にとって意味のあることではない、と思うのですが間違いでしょうか。この会の会員なら間違ったことはしないだろうとお客様が思ってくれる団体というのは、少なくとも今の業界には何処にもない、これは間違いのないことです。私どもは、こうした紛らわしいことはやりません、自分の商品や言動に責任を持ちます、と言えるだけの人々が集まって、お客に役に立つ団体を立ち上げることが必要な時期に来ていると思うのですが。

2019年4月11日