格言に見る業界ばなし その3 西行の・・・ (2014年 時計美術宝飾新聞)

 これは江戸期の川柳です。本文は、西行の涙に月もあきれ果て、です。西行、にしゆきじゃないですよ、さいぎょう、西行法師、鎌倉時代の大歌人です。この西行さん、不思議な癖がありまして、お月様を見るとやたらと泣きたくなるらしく、そういう歌がいくつも残っています。ですから、この川柳は、お月様が空から地上を見ていると、西行がまた自分の方を見つめて泣いている、おいおい、また西行が俺を見て泣いているぜ、と呆れているということ。これを宝石業界的にもじると、こうなります。宝石屋の嘘には客もあきれ果て、ねえ、なかなかの名句ではありませんか。今回は、業界に蔓延するウソ話か無知から来るデタラメについて書いてみます。
 最初に思い浮かぶのはデザイナーさんたちでしょうね。展示会などで赤いバラを付けて奇抜な服装で、会場を圧倒しているデザイナーの皆さん、自分の作品について滔々と語る内容の凄さ、宇宙を考え、エコを考え、地球に優しく、そして私のデザインと、滔々とお話しになる姿には感動すら覚えます。ジュエリーはお話ではありませんから、その作品を見ますと何の変哲も無い、やたらと半貴石などを使った大きさが目立つ作品が多い。わざわざ私のデザインと言うほどのものは少ない。大体が、ジュエリーとは美しいものでしょ、解説しなければ美が見えないジュエリーが良いはずが無いですよね。
 素材の面でもデタラメがまかり通っていますよ。こちらは宝石学などと言うもっともらしさが付いているだけにたちが悪い。私が鑑別鑑定の皆さんにもっとも腹を立てているのは,新しい宝石が登場した時のいい加減さでしょうね。素晴らしい未発見の宝石だ、天然のものですと偉そうに言う。古くはブルートパーズ、新しくはパパラチアだとか なんとかトルマリンですよね、しばらくするとあれは放射線加工だとか熱処理だとか言い出す、前の間違いを謝った宝石学者はいませんよ。
 同じようなのが真珠の花球でしょうね。相変わらずテレビ販売などで、ハナダマハナダマを繰り返しています。何となんと、最近ではアコヤでオーロラが見えるとか、わざわざノルウエーまでオーロラツアーに行く必要はない。どこにオーロラが見えるのと聞いたら、アコヤを真下から照らすと見えるそうです。真珠のネックレスを女性がつけて、真下から強い光があたることなどありますか、場末のストリップだって今ではやらない照明ですよ。                                                       
 宝石、それも特に高価な宝石を売る場合のオハナシも実にいい加減ですよね。この宝石は希少で今に無くなりますだとか、これを買えば将来値上がりしますだとか、まあ、側で聞いてて慄然とするようなオハナシをなさってる。まあ、商売ですから、ある程度のオハナシはあってもいいでしょうが、はなから理屈にも合わないことを口走るのは、そろそろ止めないと、本当に呆れて見放されますよ。

2019年4月11日