「ハイジュエリーの世界」への寄稿

ハイジュエリーの素晴らしさ

 ハイジュエリーとは、あまり聞かない言葉ですが、もともとはフランス語のオートジョワイエを訳したもの、世界に10社ほどある、グランメゾンと呼ばれる、長い伝統を持つ時計・宝石店が自社の威信をかけて作るジュエリーのことです。ジュエリーを構成するものは三つあります。使う素材、デザイン、そして作りです。この三つに最高のものを投じる、どれが欠けてもハイジュエリーにはなりません。
 最初の素材は、すべて天然のものです。と言うことはつまり、同じものは二つとないということ。ですから、素晴らしい宝石が出たと聞いたら、すぐに駆けつける、それもですね、簡単に行けるところではない、インドの片隅とか、南米のどこかとか、中東の山の中とか、とにかく早いもの勝ちの世界です。ですから、ハイジュエリーを作る大宝石店はどこでも、こうした人に知られない宝石を探しだし、買うための専門家、ストーンハンターを、常に抱えています。他の店に先を越されたら、もう終わりですから。
 次のデザイン、これこそがジュエリーの外見を整える最大の要素です。厄介なことに、ジュエリーにはとてつもなく長い歴史があります。ですから、どんなデザインを描いても、過去のどこかの国のいつかの時代に似たものが存在するのですよ。それを乗り越えて、しかも時代の要求にあったデザインを出すということは、考えるよりもはるかに難しいことなのです。いま、ハイジュエリーを作る大宝石店はみな、優れたデザイナーを抱えており、古いものと新しいものを組み合わせた、多くの作品を送り出しています。もっとも競争が激しく優劣をつけるのは、このデザインの世界でしょう。
 ジュエリーを作る技術には、実にさまざまな技術が含まれています。その根幹といえる金属加工と言う技術は、ルネッサンスが終わる頃までは、絵画、音楽、彫刻などと並ぶ立派な芸術でした。その頃までに使われた技術で、今でも復元できない加工技術はたくさんあります。近代に入ってから今まで、昔はなくて新しく加わったのはプラチナの加工だけです。このような太古からの技術は、そのほとんどが今でも使われており、しかも昔のものが優れているという、不思議なものです。こうした技術を駆使する職人たちは、独立した人も多いのですが、多くは大宝石店の裏側で黙々とすぐれた技術を駆使して、ジュエリーを作り続けています。その執念に近いこだわりこそが、ハイジュエリーが市場にある多くのものとの違いを生み出していると思います。
 繰り返しますが、こうした三つの要素を全てクリアしたのがハイジュエリーです。その精密さ、美しさ、デザインのユニークさという点では、あらゆる工芸の中でも、群を抜いたものです。ジュエリーと言うと、高価で金持ちのものだけだとか、石が大きいとか小さいとかばかりが話題になりますが、ジュエリーと言うものは、人間を美しくする工芸であるということが分かるのが、ハイジュエリーです。人間、美しいものを見ると元気なるというのは真実です。昨今、コロナコロナと大騒ぎですが、コロナなどを終わらせるためにも、我々が美しいものを見て、生きる喜びを取り戻し、元気になることこそ、何よりの方法ではないでしょうか。どうかハイジュエリーの世界を理解してください。

2020年12月15日