格言に見る業界ばなし その7 いいやつばかりが・・・ (2014年 時計美術宝飾新聞)

 これは箴言とはほど遠い、ど演歌の一節です。「いいやつばかりが先に逝く、どうでもいいのが残される」小林旭が歌うところの「惚れた女の死んだ夜は」のサワリの部分、聞いた方も多いでしょう。私はこの歌を聞くたびに、希望退職を募る衰退企業のことを思い出します。希望退職を募ると、優秀な奴から先に辞めて行く、どうしようもなくて辞めて貰いたい人は最後まで辞めない、というパターンはおなじみのものです。ですが今回は希望退職の話じゃない、宝石業界のいいやつ、どうでもいいやつの話です。
 宝石業界に入ってからもう50年以上になり、その間じっと業界を見ていますと、どうもこの歌の通り、いい会社ほど消えるか伸びない、その反対に、何時の間にか訳の分からん会社が銀座などでも大きな顔をしている、まあもっと長い目で見れば、こうしたどうでもいいのも消えて行くのですが、とにかくあんた誰、どっから出て来て何をしてるのと訊きたくる業者が多いことが分かります。最近の例で言えば、ブライダル専門店という奴でしょうね、不思議なのは。人口は減る、非婚率は高まっている、結婚しても指輪よりマンションが欲しいという女性の率は高まっている、これでブライダル市場が有望な市場である訳は無い、にも関わらずブライダル専門店が雨後の筍のように出て来てくる。何とも怪しげな商品を怪しげな価格で売っている、それで既存の宝石店が大迷惑を被っているというのは最近の図式ですよ、まさにどうでもいいのが残される、ですよね。
 まあこうなるのも、お客の側にも幾分かの責任はあります。何十万円のものを買うのに、調べも勉強もしないで買う。千円の野菜を買う場合には、目の色を変えて選ぶのに、数十万円の買い物にまったく調べもしないで衝動的に買う。これは本当に不思議ですよ、それでいて良くない商品とわかれば大騒ぎする。一言でいえば、無知蒙昧ですが、お客様は神様だという我が国で、これを言う訳にはいきませんよね。それでも、私は思うのですが、そろそろお客に何が本当のことなのかを教えるというか、言う時期に来ていると思いますよ。これまでは、日本中の宝石店はすべて良いお店で、そこで売られているジュエリーはみんな良いものですと言ってきた訳ですよ。そんなことはないことは業者なら皆知っている。それが結果としてはっきりと現れたのが、いま作り直しや売却しようとするととんでもない価格にしかならない商品の山ですよ。堂々たる百貨店の領収書が1000万のものを、引き取るとすると50万円にしかならない、これはざらにあることです。こうしたことを繰り返しては、宝石業界の将来はない。だから最低でも、こうした商品はいけませんとか、こうしたお店はお止めになった方がと、名前をあげるのではなく、一つの指標としてお客様に話す時期に来ていると思いますよ。そんなことをしたら、売上げが減るよという業者は、どうでもいい奴で、反省してもらうか消えてもらうしかない、宝石店のいいやつばかりが先に逝くでは、業界の将来はないと思います。できることなら、近い将来に、お客に本当のことを言っても商売のできる連中だけで、小さな会を立ち上げたいなと思っていますが、どうなりますか。

2019年4月11日