格言に見る業界ばなし その11 これを知るものは・・・ (2014年 時計美術宝飾新聞)

 これはまたまた論語です。これを知る者はこれを好む者にしかず、これを好む者はこれを楽しむ者にしかず、これが全文です。つまりですね、ある物について、知識のある人よりもそれが好きな人、それが好きな人よりもそれを楽しむ人のほうが上です、ということでしょう。まあ、言ってみれば「好きこそものの上手なれ」というコトワザの通りでしょうね。さていつものことながら、これを宝石業界に当て嵌めて見ましょうか。宝石を知る人、つまり知識のある人は、結構多いでしょうね。知識を悪用している人もいますが、知ることにかけては日本人らしく、非常に細かいことまで知っています。だけどその知識の多くは、石としての宝石の知識に偏っていて、ジュエリーそのもの知識は逆に少ない。つまり宝石学は発達していてもジュエリー学はまったく無いと言える、それが今の業界の状態ではないでしょうか。だから面白いジュエリーが生まれないのだと思います。
 さて、ではジュエリーが大好きという人は、宝石業者のなかでどのくらいの比率を占めているのでしょうか。推測の域をでないのですが、あまり多くないことだけは間違いない。ジュエリーが好きで好きで宝石屋になったというのは、お店や企業が初代のところには、まあいると思いますが、二代目、三代目の店や会社になると、かなり疑わしい。オヤジから押し付けられたとか、結婚したら嫁が宝石屋の娘だったとか、サラリーマンになるよりはマシと思ったとか、先代よりも宝石が好きという人は珍しい。新しく始めた人でも、なんとなく儲かりそうだとか、見よう見まねで始めたとか、社長を見てたら誰でも出来そうだからとか、不純な動機が多いですよ。
 これがジュエリーを楽しむ人となると、まあ、ほとんど居ないでしょうね。全国で見ても10−20人程度じゃないかと思いますよ。そもそも、あることを楽しむ時には、その損得を考えないものですよ。あまり儲からないなとか、場合に寄っては損をするなと思っても、面白いからやってしまう、それが楽しむことの本質ですよ。もちろん、我々は売れてナンボの世界に住んでいる訳ですから、お気楽なことを言うだけですむ訳ではない。だけど私はこの宝石が好きだとか、このデザイナーを世に出したいとか、損得を離れて気に入るものが無い人、それはジュエリーを楽しんでいないと思います。そんなこと、会社にとって無駄なことと思う人は、宝石商にはならずにコンビニでもやったら良い。ヴォルテールという哲学者が、こう言ってます。世の中、無駄なものほど大切である、と。無駄の最たるもの、それが宝石、ジュエリーでしょ、それを商売とするなら、無駄を楽しむことは大事ですよ。それが全くないのが業界です。
 不思議なものでね、お客様というのは、この売り手の差が分かるのですよ,分かると言うよりも感じとれるのです。いったいこの業者は本当にジュエリーが好きでやっているのか、単に金儲けのためにやっているのか、が本能的に分かるのですよ。お客様は、特に良いお客様ほど、この点については敏感です。だから自分もジュエリーを楽しむことが大事になるのです。え、俺、そんな立派なお客に会ったこと無いよ、と言われそうですが、それはそうした客が居ないのではなく、あんたの所には寄り付かない、ということです。猛省しましょう、楽しんでジュエリーの商売をしましょうよ。

2019年4月11日